日本古典文学論特殊研究(上代)[22B0540]

科目名
Course Title
日本古典文学論特殊研究(上代)[22B0540]
Advanced Seminar: Ancient Japanese Literature
授業言語
Language
Japanese
科目区分・科目種 日本語・日本文学コース クラス 日本語・日本文学コース
CCBM キャリアデザイン  
単位数 2.0単位 履修年次 14

担当教員 土佐 秀里
学期 後期
曜日・時限・教室
金曜 7 8 共通講義棟1号館102室

受講条件・その他注意
なし

授業の形態
講義,対面授業のみ

教科書・参考文献
教科書:『補訂版 萬葉集本文篇』(塙書房) 
「本文篇」を使用する。よく似た「訳文篇」と間違えないように。
原文を載せるものであれば、他の出版社のものでも、古いものでもよいが、歌の「訓読」が本によって異なっているので、その点だけ承知しておいてほしい。
参考文献:テキストには語釈も現代語訳もないので、必要があれば、角川ソフィア文庫・岩波文庫・講談社文庫の万葉集を購入しておくとよい。図書館で見るのであれば、新編日本古典文学全集が見やすい。
 自分で買える資料集としては、『万葉集事典』(講談社文庫)・『万葉事始』(和泉書院)が比較的安価。もし文学史論を受講していれば、テキストの『年表資料上代文学史』(笠間書院)も活用できる。
 図書館で調べる本としては、『万葉ことば事典』(大和書房)・『時代別国語大辞典上代篇』(三省堂)・『万葉植物文化誌』(八坂書房)・『年表万葉文化誌』(おうふう)・『万葉集事典』(學燈社)・『万葉集索引』(塙書房)などがある。その他にも、大型の歴史辞典・人名辞典・漢和辞典・古語辞典・地名辞典・民俗辞典・文法辞典などが必要となる。
 万葉集には多くの注釈書があり、また、古事記・日本書紀・続日本紀・懐風藻・律令など、同時代資料や歴史資料も参看しなければならない。それらは必要に応じて授業で紹介する。また図書館で、自主的に参考文献を探してみてほしい。

ALH区分
ALHとして実施

評価方法・評価割合
授業への参加態度=50% 授業時にコメントを書いて提出する。評価基準は、授業内容をふまえながらも、視点に独自性があることを評価する。,ALH(アクティブ・ラーニング・アワー)=50% 2回のALH時にレポートを書いてもらう。評価基準は、授業内容をふまえながらも、視点に独自性があることを評価する。

主題と目標
 この授業では、上代文学を代表する作品である万葉集を読むこととする。講義の主題は「万葉集の物語性」である。
 万葉集といえば和歌集だというのが一般の認識であろうが、「和歌」の定義を作った古今集以後の和歌文学と、万葉集の「歌(倭歌)」とでは、かなり様相が異なっている。たとえば、古今集以後の歌集は、詞書に年月日を記すことがほとんどないが、万葉集では神経質なまでに年月日を記そうとする。また、平安時代以後は和歌といえば季節の風物を詠むものだと考えられるようになってゆくが、万葉集では季節歌は傍流であり、自然を詠んでいるように見える歌でも、人事の喩であることが圧倒的に多い。あるいは、平安時代になると和歌といえば専ら短歌をさすようになり、長歌を詠むことが非常に珍しいことになってくるが、万葉集では長歌こそが歌の中心にある。
 万葉集を代表する歌人・柿本人麻呂は、短歌も作ってはいるが、その本領を発揮したのは長歌である。長歌は語数が多く、情報量が多い分だけ、構成に工夫を凝らすことができる。やがてその構成は劇的な展開を求めるように進化し、必然的に物語性を獲得するに至る。万葉の長歌は、「歌」でありながら短編小説の如きストーリ性のあるものとなっている。
 あるいは、短歌であってもそれを複数組み合わせることで、歌の配列がひとつの物語になるように構成することができる。この方法を開拓したのも人麻呂である。配列された歌のまとまりを「歌群」という。歌群の物語性は、歌人によって作られる場合と、歌集編集者によって作られる場合とがある。歌集の中に、長大でストーリ性のある歌群があることは、やはり万葉集ならではの特色であると言える。
 そもそも万葉集は、歌を年代順に並べ、歴史書のような構成をとるところに特色がある。この特色は、平安以後の和歌集(とくに勅撰集)とは異なる編集の論理によって形成されている。歴史もまた「物語」であり、ここに万葉集の物語的志向を形成した基盤がある。古事記・日本書紀にも多くの「歌」が収載され、歴史を物語るための資料として動員されているが、万葉集もまた歌によって歴史を語ろうとしている。そのため、長歌形式や歌群形式が要請されることになる。一首一首の歌を鑑賞的に読むのではなく、まとまりとしての歌が総体としてひとつの主題、ひとつの物語を表そうとするのが万葉集であり、そのような読み方が読者に要請されるのである。
 このように、万葉集とその歌には、「物語性」が消し難く刻印されている。この授業は、万葉集を読むことが、その「物語性」を読むことに他ならないことを語ろうとするものである。具体的には、人麻呂・虫麻呂らの物語的長歌と、旅人・憶良らの歌群による物語や、巻十六の歌物語的漢文説話などを読んでゆくことにしたい。
授業の進め方は、講義形式で、万葉集の歌を順次講読してゆく。
 受講者の到達すべき目標は、次の通りである。
@古典文学を「文学」として読む視点を獲得する。
A万葉集についての基本的な知識と見識を身に着けることができる。
Bことばを大切にして「読む」態度と、自分なりの見方で「読む」態度を身に着けることができる。

授業計画
第1回
第一回は「万葉集はむずかしい」。表記と訓読の多様性。諸本と校異。基礎作業と文学的「読み」との往還。
一回目からテキストを使用する。
第2回
長歌の物語性1・石見相聞歌(巻2・131〜139)。律令官人の幻想。「異界の女」と悲恋。
第3回
長歌の物語性2・泣血哀慟歌(巻2・207〜216)。「悲劇」の語り方。「平凡人」の物語。
第4回
長歌の物語性3・安騎野遊猟歌と日並皇子挽歌(巻1・45〜49、巻2・167〜170)。謎解き型の構成。「政治」と「神話」。
第5回
長歌の物語性4・真間の手児奈と末の珠名(巻9・1738・39、1807・08)。男性官人の地方幻想と女性幻想。
第6回
長歌の物語性5・菟原処女の歌(巻9・1809〜1811、1801〜1803)。「三角関係」の語り方。伝説とその解釈。
第7回
ALH(第一回)万葉集の長歌を読み、考える。
授業で扱った作品、またはそれ以外の長歌作品について、各自の読み方を自由に述べる。
第8回
長歌の物語性6・貧窮問答歌と古日の歌(巻5・892・893、904〜906)。架空対談形式と悲劇の語り。
第9回
漢文と歌の物語性1・桜児と蘰児(巻16・3786〜3790)。歌と物語の結合。複数の視点から「死」をとらえる。
第10回
漢文と歌の物語性2・松浦川に遊ぶ(巻5・853〜863)。万葉集と遊仙窟。律令官人の異界幻想。
第11回
漢文と歌の物語性3・放逸せる鷹の歌(巻17・4011〜4015)。律令官人の生活と「夢」。
第12回
ALH(第二回)題詞・左注の表現性、歌の配列の表現性について考える。
授業で扱った作品、またはそれ以外の作品について、各自の考えを自由に述べる。
第13回
歌群の物語性1・巻二の挽歌から。有間皇子臨死歌群(巻2・141〜146)。歌群構成という物語。
時間が許せば、人麻呂臨死歌群にも触れたい。
第14回
歌群の物語性2・巻二の相聞から。磐姫皇后歌群と但馬皇女歌群(巻2・85〜90、114〜116)。配列が語る心情の変化。
第15回
半期のふりかえりとまとめ。万葉集とはどのようなものであったのか、あらためて考えてみる。

時間外学習
 事前学修としては、毎回、授業で扱う予定の歌に目を通しておく。できれば、わからないことばや疑問点などをノートにメモしておく。また、授業内容に対する自身の理解度に応じて、古典文法の知識、日本古代史の知識、日本地理の知識、文学史の知識、有職故実および日本文化に関する知識に不足や不安を感じた場合は、各自で参考になる本を探し、適宜自修してほしい。
 事後学修としては、授業でわからなかったことを整理し、自分で調べてみて、それでも解決できなかった場合は教員に質問をする。図書館に行き、注釈書や研究書を探して、必要な情報を獲得してもらいたい。WEB上の情報にはまだまだ不足が大きく、図書館で紙の本を見なければわからないことも多い。本を探し、調べると言う作業は、経験を重ねることによって速度と質が向上する。ぜひ図書館という膨大な知の貯蔵庫に、挑戦してみてほしい。

学生へのメッセージ
 授業に関する連絡・オンライン授業のURL・ALHの課題などはすべてmoodleに掲示するので、毎週授業開始前に確認すること。質問はメールで。メールアドレスもmoodleに掲示する。対面の機会が少ないので、その分気軽にメールで連絡してほしい。
 この授業は万葉集の歌を読む授業なので、手元に万葉集がないと授業が理解できない。何でもよいので、必ず用意しておいてほしい。
 また、勝手ながら私の本属校務の都合により、授業予定の順番を変更し、ALHの日程を変える場合がある。変更は、開講時には伝達できると思うが、いずれにしても事前に伝えるので、日程に変更がありうることを承知しておいてほしい。
 文学は、百人いれば百通りの読み方がある。文学の読みに「正解」はない。私が授業で提示する読みは、そこまで非常識なものではないはずだが、私にしかできない読みだという自負をもっている。だからどの文庫本やどの注釈書にも書いてない読み方をするはずで、その「違い」こそを味わってほしいのであり、異なる見解を無理に一致させようなどと考えないでほしい。これまで言われていないことを言うことが学問である。そこが、高校までのお勉強(これまで言われてきたことを疑わず信じろ)と、大学での学問の違いである。予習復習で気づいてほしいことは、同じ歌であっても、相当違う読み方があるということである。それはつまり、あなたも「違う読み方」をしてよいということを意味している。
 さよう、この授業の目標は、土佐秀里という異端の万葉学者の説を拳拳服膺することにはない。私の「読み」に従う必要はなく、そこに対抗し、自分なりの「読み」を見つけてほしい。それがこの授業の到達目標である。学んでほしいことがあるとすれば、それは「読み」そのものではなく、そこに到達するための手順であり、それを成り立たしむる根拠の見つけ方であり、それを成り立たしむる論理の構築の仕方である。
 受講生諸君の知的健闘を祈る。

学生の問い合わせ先
 開講時に連絡先(アドレス)を伝える。
 履修に関すること(出欠・単位・試験など)は、大学事務の担当部署に連絡・相談し、授業内容に関する質問や相談は、授業終了後に直接聞くか、メールで問い合わせること。